「目に見えない力」を養うと、学力は後からついてくる

「目に見えない力」を養うと、学力は後からついてくる

「目に見えない力」を養うと、学力は後からついてくる

 大阪府住吉区立大空小学校。ふつうの公立小学校ですが、いわゆる発達障害児と呼ばれる児童も、いわゆる健常な児童も、教職員や地域の人たちに見守られながらみんないっしょの教室で学ぶ様子を1年間追い続けたドキュメンタリー映画『みんなの学校』の上映会が各地で開かれ、大変な反響を呼んでいます。同小学校の元校長先生・木村泰子さんの講演もついた上映会が地元で開かれたので、私もお話を聞きに行って来ました。

 

 映画そのものはぜひ多くの皆さんにご覧いただきたいので、ここでは詳しく触れません。春4月から卒業の3月までの1年の巡りが、日々の学校での様子や行事とともに描かれるので、小学生の子を持つ親としては、いちいち胸がキュンとしてきます(笑)。とくに、他の小学校ではなかなか学校生活になじめずに大空小学校に転校してきたお子さんのお母さんが、中身がぐちゃぐちゃになっているランドセルや薄汚れた上履きをお子さんが持ち帰ってくるのを見て、「この子なりに学校で生活できているのが分かって、こんな小さなことでもうれしいんですよね」とホロリとされるシーンは、だれもが主役である「みんなの学校」を目指す大空小学校の真骨頂が表れています。

 

 上映会後に講演された木村先生は、大空小学校の9年前の設立時から校長先生を務められてきた方です。木村先生によると、映画の撮影時は全校生徒220人のうち30人が支援を必要とする児童だったが、現在は260人のうち50人にまで増えたとのこと。それでも、木村先生はじめ教職員によるモットーは「すべての子どもたちが安心して学べる場をつくる」とブレません。

 

 これに対して、会場からは「不登校をなくすためにはどうすればいいのか?」という質問が飛びました。木村先生のお答えは明快でした。「学校の空気を変える。(学校に行けない子どもではなく)周りの子どもたちや大人たちを変えることです」と。

 

 映画の中では、みんなと一緒での教室活動がしにくく、すぐに外に飛び出してしまう子に対して、他のクラスメートたちが代わるかわる迎えに行ったり、声をかけたりするなど、色々な方法で関わっているシーンが数多く出て来ます。木村先生は「100人のうち1人の学校に来ていない子がどうやって来られるようになるかを考えることこそ、子どもたちにとっての学びになる」と力説します。

 

「学び」とは何か?さらには、学力とはどういうことか?改めて考えさせられる問題提起です。

 

 木村先生は、子どもたちの能力には「目に見える力」と「目に見えない力」があると捉えています。目に見える力とは、現在の日本社会で使われる「学力」の意味そのもので、暗記力や再現力が試され、正答があって点数化できるチカラ。これに対して、目に見えない力について、木村先生は「何事につけて自分で決め、自分でやり切る力」と評します。

 

 どんな個性を持った子どもでも受け入れると評判になった大空小学校ですが、一方で「いい学校かもしれないけど、勉強できないんじゃない?」といったうわさが聞かれた時期があったそうです。ならば調べてみようということで、全国学力・学習状況調査(いわゆる「学テ」)の成績をひも解いてみると、思考力を問うB問題が常に全国平均を上回っていることが分かりました。直近の学年では、B問題に関しては学テの成績上位の常連で知られる秋田県の平均点をも上回ったのだそうです。

 

目に見えない力を養うと、目に見える力も自然についてくる

 

 これが、木村先生が大空小学校の9年間でしみじみと実感されたことだそうです。では、どうすれば見えない力を養うことができるのか。木村先生は、2つのことを指摘されました。

 

・学校を地域に開放する。多様性の時代に、学校だけ「鎖国状態」でいいのか?
・学びの場では(先生と子供たちは)対等な関係性をつくるべし

 

 これは、学校教育だけでなく、家庭教育にも当てはまることだと思いながら、私はお話を聞いていました。皆さんそれぞれの学校に大空小学校の思想を働きかけていくことは、まだまだハードルが高いことかもしれませんが、まずは家庭での子どもとの関わりからもこうしたことを意識し、少しずつ地域社会に広げていきたいものですね。

 

木村先生による大空小学校での実践がまとまった本も出ています。こちらもぜひ。

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