戦略的社会貢献って何?
地球環境や従業員の労働環境に配慮し、地域社会にも積極的に貢献しながら安定した利益を上げることを目指す企業の社会的責任(CSR)という考え方については、知っている、または聞いたことがあるという方が多いかもしれません。でも、戦略的社会貢献(Strategic Philanthoropy 以後SP)と言われると、知らない人のほうが圧倒的でしょうし、「えっ、また何かやらなくちゃならないの~?」という企業担当者の悲鳴も聞こえてきそう。
戦略的社会貢献(SP)って一体何なのでしょうか?
こんな問いをベースに、国際支援NGOのケア・インターナショナルジャパンと(株)イースクエアなどの共催で「CSRシンポジウム 企業と社会の新しいパートナーシップに向けて」(当日資料のダウンロードできます)が先日行われました。
SP とは、企業の利益を考慮した社会貢献活動のこと。例えば、食品世界最大手のユニリバーと世界自然保護基金(WWF)のSPによって誕生したマリン・スチュワートシップ・カウンシル(MSC)の活動。持続可能な漁業(自然環境に負担をかけない、乱獲しないなど)を営む水産会社への認証活動によって、私たちの食卓にのぼる魚にまつわる世界規模の問題をクローズアップさせました。また、スターバックスコーヒーは、ケア・インターナショナルなどとのSPによって続けているコーヒー農家支援事業(通称CAFEプラクティス)を通じて、世界各地のコーヒー農家の自立をサポートしています。
SPでは何よりも、活動主体となる企業とNGOの双方に利益をもたらすwin-winな関係性が求められます。MSCの場合、ユニリバーは食品メーカーとしての社会的責任の一端を果たすことができ、WWFはユニリバーとの恊働によって海洋環境の保全という組織としてのミッションを効果的に実現することができました。スタバのケースでも、スタバはコーヒーを提供する企業としての社会的責任を果たせますし、パートナーとなった国際支援団体にとっても、単にお金を出して終わりではなく、援助の効果が持続する事業を行うことができます。CSR経営の文脈でSPを意識しだすと、企業がNGOとともに行う社会貢献事業は、社会変革に向けての大きなツールになり得ることが実感できるはずです。
では、SPを実践するに当たって留意すべきことは一体何か。スターバックコーヒージャパンの堀江裕美広報室長のシンポでのお話をもとにすると、こんな感じになるでしょうか。
・ビジネスドメインに合っているか
NGO側からすればもちろん「活動領域に合っているか」ということ。これがずれていると、実際に行う社会貢献活動の効果、活動に対するステークホルダーからの共感がともに薄れる可能性があります。
・双方の価値観の一致
パートナーシップを組む企業、NGOが互いに信頼できるかどうか。
・社会的ニーズの存在
必要と考えた慈善事業を損得抜きでやり遂げる姿勢は大事ですが、それと同時に、どのような貢献が世の中から求めているかを考えることもSP では欠かせません。
SPなんて言うと、CSRとは異なる新しいことのように思われるかもしれません。でも、私の理解では全くそうではありません。要はCSRをもっと戦略的にやりましょうよ、ということ。「そんなの当たり前では?」と突っ込みたくもなりますが、それほどまでに”戦略なきCSR"が横行しているということなのだと思います。環境にやさしい企業イメージを作るためにとりあえずどこかに植林でもしておこうとか、工場のある地域のお祭りにとりあえず寄付しておこう、などなど。そんなことがCSRではない―、というのがSPの言わんとするところです。
シンポの質疑応答の中で「個人としては共感するが、顧客から支持されるかどうかを考えると踏み切れないことが多い」という趣旨のことをおっしゃった方がいましたが、このような企業には残念ながら意義あるCSR経営はできないように思われます。人に言われたから、皆に好かれるから、という理由からCSRをやっているうちは、SPなんてできません。SPとは、社員たちの心の底からわき起こる「思い」をベースにしたものでなければならないはずだからです。