ジャーナリスト/コミュニティ・プロデューサー
木村麻紀 公式ウェブサイト

「子ども・子育て新システム」の目指すべき道

「子ども・子育て新システム*」を考える緊急シンポジウムが先週9日、東京・霞ヶ関の弁護士会館で開かれ、私も行ってきました。この日は取材者というよりは、完全に保育園児母の思いを抱えて出かけた私。会場には同じような思いを持っているであろう親御さんたちが多数訪れ、定員を上回る盛況ぶりでした。
*同システム検討会議のHPはこちら。同システムの現時点での中身は、この中の「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(平成22年6月29日付)として掲載されています。
新システムそのものについて知らなくても、「保育園の待機児童問題」とか、幼稚園と保育園を一緒にするという「幼保一体化」という言葉で聞いたことがある、という方は多いかもしれません。新システムとは、子ども・子育てを社会全体で支援し、すべての子ども・子育て家庭に必要な良質のサービスを提供するーということを基本方針に掲げています。これなら誰しも、異論ないところだと思います。ならば、新しくなるというシステムには何の問題もないはず。
ところが、どうもこのままだと色々と問題が起こりそうです。
問題は多岐にわたるのですが、5カ月から子どもを保育園に通わせる働く母の一人として、危機感として共有したのは以下の3点でした。
ーーーー
1、保育園に入る必要のある子どもほど入れなくなる?
現在の認可保育園での保育価格は、国などからの補助金と保護者からの保育料で賄われていて、保育料については保護者の収入に応じて決められています(無認可保育園の保育価格は、すべて保護者からの保育料なので高い訳です)。規定保育時間内であれば、保育時間が長くても短くても保育料は同じ(ただし、延長保育料は別途徴収)。
ところが、新システムではこのままだと利用時間に応じて保育料が増えることになりそうです。長時間労働になりがちな低収入世帯の子どもたちの保護者ほど、負担が大きくなります。ひとり親家庭や障がいのある子どもたち、あるいは虐待疑い家庭の子どもたちにとっても、保育園へのハードルが高まることでしょう。
保育園に入る必要のある子どもほど入れなくなるーなんて、本末転倒ではないでしょうか。
2、親の経済力で受けられる保育・教育に差がつく?
新システムでは、保育園運営費として補助金と保護者からの保育料のほか(というか、保育料とともに)、自由に追加料金を設定して良いことになっています。追加料金の対象としては、リトミックや体操、英語といったいわゆる「お稽古ごと系」の活動が最もよく言われるところです。
財政難に伴って想定される補助金の減額に備えてのことと推察しますが、これがもたらすところは、親の経済力次第で子どもが受けられる保育や教育の内容に差がつくという、シビアな光景です。
たとえ一緒のクラスで仲の良いお友達同士でも、この子はリトミックのお部屋に行けて、あの子は行けないー。自分が選んだことでもないのに大人たちにそんなことされたら、子どもたちはどう思うでしょうかね…。
3、子どもの命が脅かされる?
認可保育園の運営費には現在、使途制限が設けられています。ところが、新システムではこの制限が撤廃される見通しとのこと。そうなると、事業者によっては保育以外の部分に投資する誘惑にかられるところも出て来る可能性があり、手が付けやすいコスト削減の対象として、真っ先に保育士さんの給与カットに動くことになりかねません。
現に、これまでにも極端な人件費削減によって保育者の質の低下を招き、赤ちゃんの死亡事故をたびたび起こしている劣悪な無認可保育園が出ています。認可保育園についても補助金削減などの影響が人件費に及んできているのに伴い、事故数が増えてきています。
行うべきは、運営費の一定割合を必ず保育士の給与に宛てるという使途制限の強化であるはず。さらには、悪質な運営をしている事業者を定期的に検査して排除命令を出せるようにするための、行政による監督コストも担保されなければならないと思います。
新システムでこのまま議論が発展しないままだと、子どもたちの命にも関わるこのあたりの事柄はすべてないがしろにされたままになってしまいそうです。これでは、安心して働けません。
ーーー
新システムはよく、介護保険と比較されます。先行する制度をベースにメリット・デメリットを整理するのは、手法としては良いですが、自分の生活環境を「選べる」大人であるお年寄りと、自分では選べない子どもとは、根本的な前提条件が違うということを、私たち大人はよくよく肝に銘じなければならないはずです。
それでは、私たちが目指すべき方向性、言い換えれば子どもたちの心身ともに健やかな成長のために与えてやれる環境とは、一体何なのでしょうかー。
待機児童の問題はあるものの、市町村が責任を持って子どもたちを入所させて施設の運営を維持する日本の保育システムは、世界的にも評価されています。現行システムの大枠は、別にいじる必要はない。むしろやるべきことは、諸外国に比べてとても狭い場所、少ない先生方の中での生活を余儀なくされている子どもたちの置かれた環境を改善する手段を多角的に講じること。そのために、子どものための財源を増額することー。この「正攻法」しかないと思う訳です。
この新システムのお話、着々と進行しながらもまだまだ決まっていないことが多いので、今がまさに変えられるタイミング。皆さん、それぞれの職場で、保育園で、ご近所で、この目指すべき道についてシェアし合いましょう!
直近では、2月25日(金)に病児保育のNPOフローレンスなどが主催する討論イベントも企画されています。 私も働く親の一人として、このテーマを継続的にウォッチしていきたいと思っています。
<このテーマをもっと知りたい方への参考サイト>
日本の保育・子育てを良くするためのアピール


2 Comments

  1. 匿名 on 2011-02-16 at 21:24

    なるほど、つい他の国の話しは良いところに目がいくけど日本の制度の良いところもキチンと認識しておかなければね。まずは保育園の数を増やして近所の、あるいは希望する地域の保育園に通えるようにしたいね。



  2. maki on 2011-02-24 at 15:11

    コメントいただき、ありがとうございました。
    統合などで空いた学校施設、有効活用されていない公民館・児童館など、リノベーションで対応できるケースを発掘していくことも大切だと思います。新築は財政的にも土地スペース的にも、なかなか難しい面がありますので。
    ただ、やはりいずれ子どもの数は減りますので、それらを老人施設にさらに転用していくことを可能にする手法も、今後は盛り込まれるべきだと思っています。