スロー&オープンなつなげ直し

スロー&オープンなつなげ直し

スロー&オープンなつなげ直し

 持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 (広井 良典、ちくま新書)という本を読みました。この本では、機会の平等を保障するため、所得の不安定な若年層に「若者基礎年金」という形で一定の所得補償をする「人生前半の社会保障」ということについて中心的に書かれています。が、私がむしろ面白いと感じながら読んだのは、崩壊が指摘されるコミュニティでの人間関係のつなげ直しの大切さを説いた第7章のコミュニティ論でした。
 いわく、戦後の日本では、人々がモノの豊かさを追求してしゃにむに働きながら(ファスト)、会社と家族、または血縁といった狭い関係性(クローズド)に閉じこもったファスト&クローズドなコミュニティが主流だった、と。しかし、そのようなあり方が様々な場面で行き詰まっている中では、心豊かに働き暮らしながら(スロー)、帰属する組織や地縁、血縁だけにとどまらない開かれたつながり(オープン)を紡いでいくこと、つまりスロー&オープンなコミュニティづくりが求められる、と主張しています。全くその通りだと思います。
 しかし、このスロー&オープンなつながり方というのは、多くの日本人、とりわけ一定年齢以上の方々にとって未知の世界です。壮大なチャレンジですが、今やらないと年金や介護、教育、子育てといった現状でも課題山積な分野が本当にどうにもならなくなってしまう気がしてなりません。「消された年金」問題を持ち出すまでもなく、目の前の課題に迅速に対応してもらうのはもちろんのこと、スロー&オープンな関係性に基づいた社会のグランドデザインを描くことも同じぐらい大切なことです。
 ちなみに、本の帯には「『人生前半の社会保障』を手がかりに、私たちが実現しうるオルタナティブな社会の全体ビジョンを示す」と書かれています。オルタナつながりということで、うなずけることの多い本でした。
 

持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想
広井 良典 (2006/07)
筑摩書房

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