ある政治家の退場

ある政治家の退場

ある政治家の退場

世間がワールドカップの熱戦に湧く中で、「現代ドイツでもっとも人気を博した政治家」とも言われたある政治家が先日、政治のピッチを静かに去りました。
fischer

 


ヨシュカ・フィッシャー氏、58歳。ドイツの元外相(1998-2005)、そしてドイツの環境政党「緑の党」の党首を務めたお方です。高校中退後、タクシー運転手などをしながら左翼系の政治運動に身を投じ、80年代前半に当時まだできたばかりの緑の党に参加してたちまち頭角を現しました。91年にはフランクフルトのあるヘッセン州の環境大臣に就任。ジーパンとテニスシューズ姿で就任宣誓に臨んだエピソードは、彼の政治人生を語る上で欠かせません。その後、緑の党は98年の総選挙を機に社会民主党との連立によって国政に参加するまでに成長。政権の一翼を担った2005年までの間に、ドイツで有機農業や自然エネルギーがここまで拡大したのは、同党の国政への参加なくしてはありえなかっただろうと思います。
 一方、外相に就任したフィッシャー氏は、第二次大戦での敗戦以来のタブーを破って、NATO(北大西洋条約機構)軍のコソボ空爆、さらにタリバン崩壊後のアフガニスタンでの平和維持活動へのドイツ軍派兵を断行。一連の行動は、Love&Peaceな環境政党を政権担当能力を備えた現実路線に転換させたとして多くの賛同を得た反面で、戦争反対・平和志向の伝統的な党支持者たちからの反発も大きかったのでした。評価の分かれる政治家ではありますが、20年足らずの間に世界でもっとも成功した環境政党を作り上げた手腕と功績は素直に認められて良いでしょう。フィッシャー氏は今後、9.11後の国際危機管理外交をテーマに米プリンストン大学で教鞭を取るそうです。
 さて、フィッシャー氏を失った現在の緑の党の党勢はなかなか厳しいものがあります。今のドイツの最重要課題と言えば財政再建に社会保障改革、そして何より雇用です。政策の選択肢が限られていることもあり、環境政党として独自性を発揮するどころか、このままでは従来からの二大政党(社会民主党とキリスト教民主・社会同盟)と最近成長している2つの野党(自由民主党と左派党)との間で埋没しかねない状況。次の20年も生き残っていけるのか、緑の党はこれから正念場を迎えることでしょう。
 ところで、日本には環境政党というものがありません。俳優の中村敦夫氏率いる「みどりの会議」という政治団体がかつてありましたが、中村氏の議席喪失によって同団体も消滅してしまいました。現在は、「みどりのテーブル」という任意のネットワークがこれまでの活動を引き継ぐ形で活動を続けているようです。エコロジーやロハスへの関心がこれまでにない広がりを持ち始めた今、日本でもこのような関心を持つ層を受け留める政治の場が必要だと感じています。
おまけ:英国の緑の党議員が書いたこんな本を読みました。
 

Green Alternatives to Globalization: A Manifesto Green Alternatives to Globalization: A Manifesto
Michael Woodin、Caroline Lucas 他 (2004/04/23)
Pluto Pr

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この中で、Green Politics とは「グローバル化の弊害を取り除くために地域に即した代替案を提示すること」とされています。所得再配分や規制強化をはじめとする政府の役割拡大を志向する従来型の左派とは異なる、ましてや環境汚染に反対するだけのエコロジストとも一線を画す姿勢。日本の政治状況からはGreen Politics の兆しはほとんど見えませんが、21世紀の政治の潮流を考える上で非常に参考になる本です。

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