ジャーナリスト/コミュニティ・プロデューサー
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成熟社会に向けて本当に必要なこと

平田オリザさん。劇団「青年団」を主宰されている劇作家で、ここ10年は全国各地の小中学校の国語の時間に演劇表現のワークショップも行っていらっしゃいます。最近では、温泉街の風情を活かして世界的なアーティストの滞留拠点を整備して「小さな国際都市」を目指す兵庫県豊岡市でのワークショップが、子育て世帯移住の”キラーコンテンツ”になってきたことでもがぜん注目を集めています。

 

そんな平田さんの新著下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)を最近、読みました。平田さんの作品はあいにく鑑賞したことが一度もない私が、この本を読もうかなと思ったきっかけは、この本の紹介も兼ねたネット上の記事の中で、平田さんが「子育て中のお母さんが、昼間に、子どもを保育園に預けて芝居や映画を見に行っても、後ろ指を刺されない社会をつくる」と訴えているということを読んだから。もう、子育て経験のある人なら男女を問わずひそかに「そうそう!」と思わずにはいられないこの主張を、なぜ今平田さんがしているのか知りたい、と思いました。

 

下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書)
平田 オリザ
講談社
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『下り坂をそろそろと下る』では、全国各地で起きている地域づくりのユニークな取り組みをとっかかりに、大量生産大量消費型の経済優先社会から、持続可能な成熟社会づくりにシフトするための手掛かりを探っています。

 

犠牲を伴ったり、特定の人(ここで言うところの「子育て中の女性」)に我慢を強いるのは、パイを広げられる時代、言い換えればどんどん作ってどんどん消費した先に豊かな社会を築けるという前提のある中で機能してきたこと。しかし、今はもはや、パイを広げるのではなく、パイを分かち合う時代に入っています。パイを分かち合う際に必要な仕事の仕方・暮らし方に必要な素養を身につけるにはどうすべきかを、社会をあげて真剣に考えるべき時なのです。

 

そのために必要な素養を身に着けるのは、やはり教育しかないのではないかと私は思っているほうなので、平田さんの各地での演劇的手法を用いたワークショップの中身、さらにはその根底に流れている思想を知りたくて、前作のわかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書)も続けて読んでみました。

この作品を読むと、なぜ教育の中に多様性が求められるのか、なぜ一方的な教授型の授業ではなく、子どもたち同士で学び合うアクティブラーニングが必要なのかということが、すーっと理解できます。

 

そんな教育に効果はあるの?学力は身に着くの?という声は、依然として根強いと思います。目先の現実は、そうは言っても点数重視というのは、子どもが大きくなるにつれていやが応にも突き付けられます。世の中そう急には変わらない。でも、(先進国での)人口減少や資源の制約などこれからの社会の大きなトレンドを踏まえれば、現実だけに溺れていては見誤るということを痛感します。今の子どもたちの親世代としての私たち世代の責任、けっこう重大かと。

 

というわけで、平田オリザさんの2部作、ぜひセットでお読みになることをおすすめしたいです!

 

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