SRIアナリスト 佐久間京子さんインタビュー《後編》

SRIアナリスト 佐久間京子さんインタビュー《後編》

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働く女性のためのキャリアプランニング情報誌
「きゃりあ・ぷれす」vol. 118
2002・10・2(水)発行
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【特集】「天職を探せ」第4回
佐久間京子さん(社会的責任投資のための企業アナリスト)・後編

◆儲けながら良いことをする=SRI
◆女性ファンドに込める想いと日本企業の現実
◆言い続けること、それが社会改革の原動力
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「天職を探せ」第4回
佐久間京子さん(社会的責任投資のための企業アナリスト)・後編
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【プロフィール】

佐久間京子さん
1965年鎌倉生まれ。米国ジョージタウン大大学院で公共政策修士を取得
後、ベルギーのEU委員会コンサルタントとして企業の資金調達及び財務構
造比較調査を行う。その後、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の分野
で研究所や国際機関等での勤務を経て、2001年1月に企業の社会的責任
に関する調査・評価する非営利組織であるベルギーのエティベル社に入る。
数ヵ月後、エティベル社の専門調査子会社ストックアットステイク社の発足
に伴い、他のアナリストとともに同子会社に移籍し、現在に至る。

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エティベルの企業評価は、【1】経済性・成長性方針(収益、株主対応・法
令遵守など)【2】社内方針(人事戦略、労働環境など)【3】環境方針
(環境管理制度、製造過程・商品の環境負荷など)【4】社外貢献方針(企
業活動の社会的影響、地域等への社会貢献活動など)という4つの要素に関
して企業を調査した上で、全要素を均等に評価する仕組みを取っています。
佐久間さんは現在、日本企業100社弱の調査を担当するとともに、女性が
働きやすい環境を整えて女性を積極的に登用し、性別に関係なく従業員を
「個」として見ている企業に集中的に投資できる(日本初の)女性ファンド
を、日本の非営利団体と共同で創設しようと奔走しています。
(コラボレーション編集スタッフ・木村)

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◆儲けながら良いことをする=SRI
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──(宮崎)エティベルの企業評価はユニークですね。

評価するだけではなく、素晴らしいことをやっている会社をPRする意味も
込めています。日本企業も変わってきていますよ。トップが数値化した経営
の現状を社員と共有した上で、未来の姿をきちんと提示する企業がいくつか
出てきました。人事・評価制度を透明化したり、環境NGOとの連携を実践
したり…。こうしたことを社会に対してきちんと公表することは自信がなく
ては出来ません。ビジネスはチャリティーではありませんが、モラルをビジ
ネス思考で考える事はできるはずです。そんな企業を応援したい。

──(宮田)日本では、社会的責任を果たすところほど儲けられないという
イメージがまだあります。となると、SRIは儲からないと見られてしまわ
ないでしょうか。

実は欧州でも5、6年前まではまるで同じ状況でしたが、全く変わりました。
それは、SRIファンドの運用成績が既存ファンドを上回っているという実
績を示したからです。上回るまでいかなくとも、ほとんど変わらないぐらい
の実績を上げているんだということが市民の間に定着したんです。SRIは
チャリティーという意識がなくなり、儲けながら良いことをしているんだと
いう考え方になりました。運用成績が同じマイナスなら、良いことをしなが
らそのマイナスを受けようではないかということです。
今、日本ではSRIが一般社会にきちんと伝わっていないという問題があり
ます。金融業界の中で商品として語られているだけで、SRIの前提に企業
の社会的責任というものがあるという考え方が伝わってないんです。これで
はダメです。

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◆女性ファンドに込める想いと日本企業の現実
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──(木村)佐久間さんたちが仕掛けようとしている女性ファンドには、ど
んな企業を入れるんですか。

女性の活用はしっかりしているけど他の要素が著しく劣るとなると、その企
業は女性ファンドには入ってほしくないんです。他の要素がほぼ平均並みで、
不祥事がなくて、倫理規定がきちんとあった上で、女性の活用という点で優
れている企業があれば女性ファンドには入れたい。日本企業だけではなく、
欧米企業もファンドに組み入れます。女性ファンドって米国にもあまりない
んです。日本で発売した後に、欧米でも発売したい。世界の人々が、女性の
活用をサポートする世界じゅうの企業を応援するというシステムにしたい。

──女性ファンドが市民権を得ると、社会はどのように変わるでしょうか。

そうですね、私はこのファンドが発売されることで、日本の中にもこんなに
違う価値観があるんだということをためらいなく言える社会にしたいなと思
っています。日本を単一なものと見て、日本と米国、欧州を比較してどう違
うという議論はそろそろやめて、個人レベルで異なる価値観が認められてい
いと思うんです。「日本人離れしているね」と言われるのはもう飽きている
し別にいいんですが、違う人がいるんだということを社会が気持ちよく認め
て欲しい。いつも後ろめたい思いをするんじゃなくて。だって違っていいん
ですよ。今までが色々なことに縛られすぎていたんだから。

──(宮崎)そうですね。でも、企業の社会的責任という点では日本企業は
世界的に見てまだまだでは?

はい。私は香港とシンガポール企業も見ていますが、環境報告書を作るか作
らないというレベルはすでにクリアしていますし、経営ビジョンもしっかり
している。あと、日本企業が騒いでいる女性の登用とか活用というのも、実
はもはやテーマではないんです。日本は特殊な国です。6月中旬にベルリン
で女性とリーダーシップに関する会合があったんですが、そこである企業幹
部が「先進国の企業は、発展途上国の企業に対して女性の活用などの人事施
策を率先して伝授する責任がある。しかしOECD加盟国の中でも、これは
日本だが、全然遅れていて女性幹部が一人もいないような企業がある」と酷
評されていました。

──どうして日本はそうなんでしょうか。

日本人は海外の情報を人一倍良く知っている反面、そうした情報を人一倍分
析してないと思うんです。数多くの情報の中でどれが必要なのか、それをど
う活用して現状を変えていくのか、という視点が決定的に欠けていることが
原因の一つにあると思えてなりません。

──(木村)これは、まさに日本人が受けてきた教育に関わる部分ですね。

その通りです。その点、米国は全然違いました。自分で考えることを訓練さ
れていなかったので、私も向こうで随分苦労しました。例えば人類学の授業
では、ピグミー社会(狩猟採集)を現代社会と比較して共通点と相違点を挙
げよという宿題を与えられました。私その時、日本社会とは家父長制が根強
い点など結構共通する部分があるよ、といったような結論にしたんです。そ
うしたら教授がAをくれました。すごく自信になりましたね。やはり、米国
はアイデアというものに価値を置く国です。何をどう知っているのかという
のはどうでもいいんです。異なる分野の現象を結びつける能力っていうんで
しょうか、教養的知識に基づいて異なる分野であっても互いの共通点を見い
だす創造性、これはすごいですね。日本も米国も個人は同じぐらい能力があ
ると思いますが、訓練の受け方が違うんでしょうね。

企業レベルに話を戻せば、最近日本企業のトップの間で「日本企業は今まで
従業員に利益を与えすぎた。これからは、株主利益を考えるべきだ」という
思考が広がっていますが、これは非常に危険です。彼らが従業員だと思って
いるのはエリート、男性、つまり正社員ってこと。で、本当に従業員を公平
に扱ってきたかとなるとNOです。彼らは「従業員を大切にしすぎた」と言
いますが、“一部の”従業員を大切にしていたに過ぎないんです。これまで
大切にされてきた層は、既得権益を侵されるのを嫌がります。従業員は一生
権利を持った存在だというのは皆同じはずで、すべての従業員が平等に権利
にアクセスできるようにすべきだと思いますが、これを彼らに言うと黙り込
んでしまうんです。

どうして日本はこう、価値観の振り子が大きく振れてしまうんでしょうね。
欧州では、企業は株価を高めることだけではなく、安定的に成長し、スキャ
ンダルを起こさず、かつ地域とも調和することのほうが求められます。投資
家も消費者もこうした同じ価値観の求心軸に集まってきます。米国は、あま
りにも極端な立場で利害対立してしまいがちです。日本と欧州は、政府組織
が大きな権力を持っているということも含めて社会経済システムが似通って
います。日本が米国のモデルを使おうとするのは間違いだと思うんですがね。

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◆言い続けること、それが社会改革の原動力
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──(宮崎)現在の問題は、政府に経営感覚がないこと、そして企業に社会
的使命感が欠落していることだと思うんです。そうなると、その両方を持ち
合わせたNPOなどの中間的存在が重要になってきます。そして、こうした
存在が互いの足りない部分を補い合いながらネットワークを組んでいく。そ
うなるかどうかは分かりませんが、私たちがそうなると思えばそうなると思
っています。

その通り、物事を変えるにはどれだけエネルギーを注ぎ込めるかです。トッ
プの役割もそう、どれだけ言い続けられるかです。引っ張っていく人がいる
と、周りはそのエネルギーを感じて動機付けを与えられる。これはとても大
切なことです。
昨晩たまたま見たテレビで、戦後直後から救命救急医療にずっと携わってき
た方が取り上げられていました。当時はこの医療をやろうとする人は誰もお
らず、この人も周囲から「お前は死にかけている人を扱っているだけだ」と
嘲笑されたそうですが、「いつかこれが重要になる時代が絶対来る」と信じ
て取り組んでいたそうです。彼らは学会で言い続けたんです。そして、20
年後に認められたそうです。私は見ていて涙が出ると同時に、どんな分野で
も同じなんだなと思いました。

──今いろいろなところで社会を変えたいという動きが同時多発的に起きて
います。それをどうやって個々の活動にとどめずに大きなパワーにするかが
すごく重要です。もちろん一人一人のパワーも重要。言い続けるとともにつ
ながっていく──。分不相応かもしれませんが「きゃりあ・ぷれす」がこう
したつながりを情報提供の面から支えられれば、それが「きゃりあ・ぷれす」
にとっての“天職”になると思ってます。今日はどうもありがとうございま
した。(了)

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女性の活躍を推進する優良企業への投資信託に関するアンケート結果
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「きゃりあ・ぷれす」では、以前に世界の女性がもっと働きやすい社会をつ
くっていくため「世界の女性活躍」に投資する、投資信託商品についてのア
ンケートを行ないました。
今号の特集と関連して、そのアンケート結果をご報告します。

【回答者】16名

【性 別】女性:16名(100.0%)
男性: 0名( 0.0%)

【年 齢】A.20歳未満    : 0名( 0.0%)
B.20歳から30歳未満: 1名( 6.3%)
C.30歳から40歳未満:11名(68.8%)
D.40歳から50歳未満: 2名(12.5%)
E.50歳以上    : 2名(12.5%)

1.「世界の女性活躍を推進する優良企業」に投資する
投資信託商品があれば、買いますか。

A)買ってもよい     :15名(93.8%)
B)買いたいとはおもわない: 1名( 6.3%)

※ 「買ってもよい」とお答えの方にうかがいます。
2.どのくらいの金額を投資しますか。(複数選択)

A)毎月、購入する
A-1 毎月1万円未満      :7名(70.0%)
A-2 毎月1万円以上、3万円未満:3名(30.0%)
A-3 毎月3万円以上      :0名( 0.0%)

B)一括で購入する
B-1 50万円以上、100万円未満 :8名(88.9%)
B-2 100万円以上、300万円未満:1名(11.1%)
B-3 300万円以上、500万円未満:0名( 0.0%)
B-4 500万円以上        :0名( 0.0%)

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