イベントはカーボンフリーで

イベントはカーボンフリーで

地球温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)の排出量を差し引きゼロにする「カーボン・ニュートラル」を実現するため、企業や個人に植林活動や自然エネルギー利用を仲介するというユニークなビジネスで急成長を遂げているベンチャー企業が英国にある。

015_aフューチャー・フォレスト(2005年にザ・カーボンニュートラル・カンパニーに改名)は1997年、地球温暖化問題解決に向けて企業や一般の人々が直接行動できるシステムを提供したいと考えた音楽業界出身のダン・モレル氏とマーケティング業界出身のスー・ウェランド氏によって設立された。

同社では、企業と個人を対象に企業活動や日常生活で年間に使用する電力量をCO2排出量に換算、その上で英国を中心に同社が関係している世界80ヵ所以上での植林活動を仲介したり、太陽光や風力などの自然エネルギーの導入を勧めることなどを通じて、CO2排出量を相殺するプログラムを提供している。

特にスティングやレニー・クラビッツといった有名アーティストから同プログラムへの参加協力を得たことでブランドイメージの確立に成功、今年同社のプログラムを利用している企業は約130社、個人は約3万人に上っている。

地球温暖化阻止という人類にとって危急の課題にビジネスで挑むフューチャー・フォレストのジョナサン・ショップリー最高経営責任者(CEO、写真)に、事業の特徴やこれまでの成功の要因、日本市場への期待などを聞いた。

-環境コンサルタントから転身されたと聞いているが、フューチャー・フォレストの事業のどこか魅力的でしたか

コンサルタントとして「地球環境に良いことをしたい」という数多くの企業と出会い、こうした企業は実際にリサイクル技術の開発など非常に有意義な事業を行っていました。企業側は「これで環境問題は解決するから皆買ってくれる」と言わんばかりに技術やサービスを提示しますが、私は環境問題の解決には一般の人々にこの問題との関わりを理解してもらった上で問題解決に一緒に取り組んでもらわなければダメだと常々考えていたのです。

フューチャー・フォレストは、地球温暖化という実感しにくい問題を一般の人々に分かりやすく理解させ、かつ良いことをしていると感じさせるプログラムを提供するという、これまでに出会ったことのない、そして私が求めていた会社でした。

-非常にユニークな事業内容だが、他に同じような事業をやっている組織はあるのでしょうか

例えば、CO2排出権取引をやっている企業や団体は数多くありますし、航空機による移動に限定してCO2相殺事業を展開している企業もあります。ニュージーランドやスイス、米国などでわれわれと似た事業を展開している企業や団体がありますが、フューチャー・フォレストがユニークなのは、確立したブランドをベースに一般の人々を前向きな姿勢で環境問題の解決に巻き込もうとしている点でしょう。

英国では、世界に先駆けてCO2排出権取引制度が今春スタートしました。しかし、排出権取引は大企業同士のスキームであり、金融商品としての色彩が強くなりがちです。CO2の「相殺」ではなく「削減」のためのシステムであるという点も、われわれの事業とは大きく異なります。われわれの役割は、CO2増加の問題を一般の人々に見える形で提示するとともに、この問題を顧客に訴えかけようとする企業を支援することです。これは企業ブランドの向上にもつながることであり、われわれはこれを市場分野ととらえて広げていきたいと考えています。

-事業開始から約5年、プログラムを実際に導入した企業の反響はいかがですか

顧客に対する自社ブランドの向上につながるだけでなく、自社の社員に環境問題を理解させる格好の実践になっているとの評価もいただいています。同じ環境問題への取り組みと言っても「エネルギー効率を前年比何%上げる」といった計算は時として退屈なものですが、CO2排出相当額を植林や自然エネルギー利用に投資するほうがより実体が伴って分かりやすいのでしょう。

こうして、多くの企業はまず自らが環境問題に取り組むためにわれわれのプログラムを導入しています。例えばレンタカー大手エイビスの場合、ます英国内と欧州の業務をカーボン・ニュートラルにした後、インターネットで予約した顧客を対象に追加料金(レンタル5日間で約194円)を払ってもらえばレンタルによって生じるCO2を相殺できる仕組みを導入しました。

-事業の現状を聞かせて下さい

われわれは英国でスタートし、欧州大陸や米国、アジアへと事業規模を広げてきました。売上高は毎年2~3倍のペースで増え、02年の売上高見通しは約200万ポンド(約3億8800万円)で、03年までに収支を均衡させることを目指しています。幸いなことに、われわれは企業と個人の双方にチャンネルを持っていることが強みです。特に個人向けはアーティストとの協力効果もあって急速に伸びています。個人向け売上高は倍増し、01年は10%だった売上高全体に占める割合が02年は25%になりました。世界経済の先行きは気になるところですが、これまでのところ非常にうまくいっています。

日本での成功にも期待感

-日本でも関心を示す企業が現れ始めているそうですが

ソフトバンクなどが出資する化粧品販売会社アイディールコムズ(本社 東京都渋谷区)に対し、同社が運営する化粧品販売店から排出されるCO2を相殺するプログラムを提供しているほか、02年7月に行われた「フジロックフェスティバル 2002」では、コンサート運営で排出されたCO2に相当する500本分の植林事業を仲介しました。また、日中国交正常化30周年を記念して10月15日にスタートした世界的なシンセサイザー奏者、喜多郎さんのコンサートツアー「シルクロードツアー」でも植林事業を仲介しています。

今回の日本訪問では、自動車や小売り、旅行など大手4社にわれわれのプログラム内容をお話ししました。日本にはエネルギー効率の向上や植林活動などに恒常的に取り組んでいる企業が多いせいか、反応は良かったと思います。時間はかかるかもしれませんが、非常に期待できそうです。

※01年8月末から9月上旬にかけて南ア・ヨハネスブルクで行われた環境開発サミットでは、南ア政府や国連開発計画、地元企業などが中心となって、会議の運営や代表団の渡航・滞在によって生じるすべてのCO2の相殺を目指すプロジェクト「クライメイト・レガシー」が本会議と並行して行われていた。フューチャー・フォレストもコーディネーター役として同プロジェクトに参画した。

-クライメイト・レガシーの最終的な成果とプロジェクトの評価をお聞かせください

 サミット終了までにコカコーラなどの大手企業を含む86社と54の国、および地方政府などから35万ドルの資金が集まり、サミット参加者(4万5000人)の2割分に相当するCO2排出量を相殺できた。これらの資金は南アフリカを中心に太陽光発電やバイオガス発電、公共施設のエネルギー効率向上など15の事業に投資されましたが、参加した企業などの間からは次のサミットが行われる時までこのプロジェクトを何らかの形で継続したいという声も上がっています。私もそれを願っています。将来、オリンピックがカーボン・ニュートラルになる日も来るかもしれません。

今回のプロジェクトには、(1)地球温暖化問題を明確な課題として据える(2)問題解決のための具体的計画を提示する(3)計画が継続するよう促す、という3つの大きな目標がありました。われわれとしては、これほど多くの企業や政府、国際機関が関わった規模でCO2相殺プログラムを実施したのは初めてで、ここまでやれたことを評価しています。

-サミット自体の評価はいかがですか

4万人余の人々が集まるサミットへの期待は高かったかもしれませんが、多くの人々にとってはがっかりする結果だったでしょう。しかし、多くの人々が関わる地球環境問題解決のプロセスはスローなものです。水資源や漁業資源保護、再生可能エネルギーの推進など、いくつかの分野では進展がありましたが、政府開発援助(ODA)の国民総生産(GNP)比率の引き上げをめぐって目標達成期限が設定されなかったのは、人々を落胆させた最大の点でした。

今回のサミットは、これまで私たちがやってきたことを評価するための画期的な機会だったと思います。米国によるイラク攻撃の可能性や京都議定書に対する米政府の態度など、先行き不安な点があるのは事実です。一方で、環境問題に気を配ってきた人々にとって共通の敵と考えられてきた政府の間で、この問題に対する考え方を統一させる動きが出てきました。特に欧州連合(EU)諸国はそうですね。こうしたことを考えると、5年後ぐらいの期間で見れば環境問題は解決に向けてより動くのではないかと思っています。

-地球温暖化阻止や環境問題をビジネスとしてとらえた場合、今後の見通しはいかがですか

 欧米全体では、人口の10%が環境問題の解決に結びつく商品やサービスを実際に買っていると考えられています。しかし、我々にとっての挑戦は残り90%にいかに環境問題に関わってもらうようにするかです。昨年夏に英国の調査会社などと共同で実施した調査では、英国内で10人のうち7人はお金をあまりかけずに何らかの機会を与えられれば、地球温暖化防止のために何かしたいと考えていることが分かりました。この結果からも、われわれのビジネスには相当の需要が生まれてきていると感じています。

地球温暖化問題は深刻化しています。今後は、政府から環境規制を押し付けられたり、企業が罪悪感を感じながら事業を行うのではなく、日常生活から環境問題を解決するという観点でわれわれと同じような事業を展開する他の会社が出てきて欲しいです。

(2003年1月掲載)

ページトップへ