ジャーナリスト/コミュニティ・プロデューサー
木村麻紀 公式ウェブサイト

「生活創造者」が生むサステイナブルビジネス =環境・健康重視のLOHAS市場が米国で急成長=

環境破壊の進行や企業不正の横行が問題視される中、米国ではここ数年、環境と人間の健康を最優先し、持続可能な社会のあり方を志向する人々を対象としたLOHAS(ロハス)と呼ばれる商品やサービス市場が急成長しています。


地球温暖化阻止への具体策を規定した京都議定書への参加拒否など、地球環境保護の世界的な取り組みに対する消極的姿勢が何かと目立つ米国。しかし、その米国でここ数年、環境と人間の健康を最優先し、持続可能な社会のあり方を志向する人々を狙った商品・サービス市場が急成長している。成長のけん引役を担うのは、経営者として、また消費者として、利益と社会的責任を両立させながら地球の持続可能性を第一に考えて消費する新しい社会集団「生活創造者(Cultural Creatives)」と呼ばれる人々だ。

世界で1億人超がターゲット?

「LOHAS」(ロハス)-。何とも不思議な響きのするこの言葉は「Lifestyles Of Health And Sustainability」(健康と環境を志向するライフスタイル)の頭文字を取って作られた略語。米国の社会学者ポール・レイ氏と心理学者シェリー・アンダーソン氏が1998年、全米15万人を対象に15年にわたって実施した価値観調査に基づき▽信心深い保守派(Traditional)▽民主主義と科学技術を信奉する現代主義者(Modern)-に続く第3の集団として、LOHASを実践する生活創造者の存在を実証したのがきっかけで認知度が高まった。

宗教が支配した中世後期の世界観への反動から個の自由を信奉するモダニスト思考が発達したのと同様、生活創造者もモダニストの行き過ぎへの反発から誕生し、60年代以降徐々にその数を増やしてきた。レイ氏らによると、生活創造者は2000年現在、米国では成人人口の約30%に当たる約5000万人存在するとともに、欧州連合(EU)諸国内でも同約35%に当たる約8000-9000万人が生活創造者とみられている。

では一体、生活創造者とはどのような人々なのだろうか。3つの集団の具体像に迫ってみたい。

レイ氏らの調査によると、生活創造者は▽特定の地域性はなく、全米各地に存在▽平均年齢42歳▽3割が大学卒で、年収は全米平均以上▽6割が女性-ということだ。また、「地球環境の持続可能性を重視する」(87%)「理想社会を実現するために率先して行動する」(45%)主体が多いという点で、これまでの保守派や現代主義者たちとは大きく異なることが分かる。そして、自らのこうした価値観に基づいて企業やブランドを選考して消費行動を行う生活創造者の増加と軌を一にするように、彼らの志向に応えた商品やサービスを提供するいわゆる「LOHAS企業」が台頭してきた。

共感を売って成長するLOHAS企業

その一つ、LOHAS企業の代表的存在として名高いガイアム(米コロラド州)は、太陽光発電パネルのような高額なものから、環境配慮型の家庭用品や健康・自己啓発関連商品(ヨガや気功のビデオなど)、エコツアーに至るまでの多彩なLOHAS商品を、ウェブサイトとカタログ上で販売している。88年の創業以来、LOHAS商品を扱う小規模企業を次々に買収して事業規模を拡大し、01年の売上高を前年比63%増の9870万ドル(約121億円)まで伸ばした。

母なる地球(Gaia)と私(I am)の融合を意味する社名が示すのは、人間のあらゆる日常生活とつながる地球の持続可能なあり方に貢献するという同社の「思い」。その思いにかなう商品やサービスを並べたところ、きっかけは特定の商品だけを買うためにやって来た消費者が、その思いに共感して別の商品までも買い求める-。この好循環が、結果としてイーベイなどと並んでEコマースで利益を出せる数少ない米企業としての成長にもつながっている。

自らの企業理念を語り、製品の製造・リサイクル過程に関する事実を徹底的に表に出すのも、LOHAS企業の特徴だ。

アウトドア用品大手パタゴニア(米ネバダ州)は96年、スポーツウエア製品で使用する綿をすべてオーガニック(有機農法による栽培)に切り換えた。「世界で使用されている農薬の25%もが綿花に使われており、多くが最も毒性の強い部類に属する」「その農薬で全米各地で飲料水の水源である地下水の汚染が進んでいる」-。同社は、ウェブサイトやカタログを通じて、通常の綿花栽培がもたらす負の側面を余すところなく訴えかける。オーガニック・コットンは、収穫で葉を落とす時に枯葉剤などを使用する代わりに手で摘み取られるため、「製品の風合いが多少悪くなることを許して欲しい」とまで言い切った。

しかし、真実を語ることは決してマイナスではなかった。売上高は今や全世界で2億ドル余、米経済誌フォーチュンの100社番付に10年連続でランクインする優良企業として確固たる地位を築いた。

ガイアムやパタゴニアだけでなく、LOHAS企業は概して優良企業でもある。LOHAS企業の動向を紹介する雑誌「LOHASジャーナル」(フランク・ランペ編集長(当時)のインタビューはこちら)がLOHAS企業50社余を対象に独自に作成している株価指数と米店頭市場ナスダックの株価指数の推移を比較した場合、今年初めを100とした下落率はナスダックが30%余に対して、LOHAS指数は10%弱にとどまっている。持続可能な方法で作られた製品には余分な金額を支払うことをいとわないLOHAS消費者に支えられ、60%近い収益率を誇るLOHAS企業もある。

生活創造者の”生みの親”であるレイ氏は「環境にやさしい商品で利益を上げられるのかと聞かれれば、答えはイエスだ」と断言する。その上で、LOHAS企業としての成功の秘訣は、簡素なキャッチコピーに乗って流れる派手なコマーシャルを嫌い、じっくりとしたコミュニケーションを求めるLOHAS消費者に対して「全てをディスクローズすることだ」と強調する。

5000億ドル市場に大企業も食指

いわゆるLOHAS市場は、次の5つの分野から成っている。

(1)持続可能経済への貢献(再生可能エネルギーや社会的責任投資など、2000年の米国での市場規模は764億7000万ドル)
(2)健康的ライフスタイル(有機食品やサプリメントなど、278億1000万ドル)
(3)代替医療(予防法や補助医薬など、307億ドル)
(4)自己啓発(ヨガや様々なワークショップ、106億3000万ドル)
(5)エコロジカル・ライフスタイル(環境配慮型の家庭・オフィス用品やエコツーリズムなど、811億9000万ドル)

LOHAS市場は年を追うごとに拡大しており、2000年の米国での市場規模は2268億ドル(約30兆円)、全世界では5400億ドル余に上るとみられる。

レイ氏は、LOHAS市場を支える生活創造者が米国では今後10年で人口の約半数を占めるようになると予想する。そして、LOHAS市場の一層の拡大が見込まれる中で、「大企業のLOHAS化」とも言うべき現象も起こり始めている。

日本でもおなじみの米コーヒーチェーン大手スターバックス・コーヒー。同社は2000年10月、米国の全店舗で途上国とのフェアトレード(公正貿易)を通じて調達した有機無農薬コーヒー豆の販売を開始した(日本では昨年10月にスタート)。同社は03年までにさらに100万ポンド(45万キロ)のフェアトレード・コーヒーの調達を計画しているほか、「生産地への貢献」をモットーに自然環境を生かした方法で栽培する生産農家を長期的に支援する体制を整え始めている。

持続可能な地球環境を意識した企業戦略を進めるのは、消費者に身近な企業ばかりではない。英国系メジャー(国際石油資本)のBPは、100%自然エネルギー(太陽光や風力など)で運営されるコンビニ併設のガソリンスタンドを今年4月にロンドン郊外にオープンさせたほか、米国では大都市の住民にエネルギーのあるべき将来像を自由に語らせたCMを放映するなど、業界の掟を破るPR作戦を展開している。「Beyond Petroleum(石油を超えて)」のキャッチフレーズには、地球の持続可能性を意識しながらポスト石油時代を見据える同社の問題意識がはっきりと表れている。

日本でも芽生えるか?LOHAS

「世界の変化を1秒間で考えると、例えば毎秒20トンの金属類が生産され、4台のテレビが生産されていることになる。一方で、733トンの二酸化炭素が化石燃料の使用で排出され、690トンの酸素が失われ、0.6ヘクタールの熱帯雨林が消失している」-。生活創造者とLOHAS市場台頭の現状を日本で初めて紹介するために開かれた昨年10月上旬のシンポジウムで、東京大学・国際産学共同研究センター長の山本良一氏は、大手企業の環境政策担当者らを前に、物質利益の追求がもたらした環境破壊の危機的現状を引き合いに出しながら「大企業のイニチアチブがなければ、持続可能な地球環境など実現不可能」として、大企業にLOHASビジネスへの転換を強く迫った。

果たして日本でLOHASビジネスは芽生えるのだろうか-。博報堂が首都圏在住者を対象に昨年夏に行った調査では、「現在はやっていないが、今後やってみたい環境配慮型の行動」として「環境問題への取り組みが進んでいる企業の商品を買う」(65.1%)がトップとなった。これは、LOHAS商品を求めていると同時に、企業がどのようにLOHASビジネスを実践しているかについての情報を待ち望んでいる日本の新たな消費者意識を反映したものだろう。地球環境保護が待ったなしの状況となる中、LOHASビジネスの成功に対 する社会的要請はかつてないほど高まっているはずだ。

(2003年1月掲載)

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