ワークライフバランスって?

ワークライフバランスって?

やりがいのある仕事をしながら、私生活を充実させる-。そんなことできるの?と思っていたら、米国では色々な取り組みが進んでいました。日本でも、ようやく注目されてきたようです。


やりがいある仕事をしながら充実した私生活を送る-。誰でも一度は夢見るこんな生き方の実現を目指す「ワーク・ライフバランス」という考え方が注目されている。米国では1980年代後半以降、この考え方に基づいて企業が仕事と私生活との両立を支援する取り組みが次々に行われ、社員の満足度と業績がともに上がったことが示されている。

有能な人材確保に不可欠

2月下旬、働く女性向けのインターネットメディア「きゃりあ・ぷれす」が主催してワーク・ライフに関するセミナーが都内で開かれた。20人余の参加者はまず、「仕事」「家族・パートナー」「自己成長」「余暇」など8項目に関して、自分が考える重要度と実際に費やしている時間を図式化して、仕事と私生活のバランス度をチェック。その後、グループに分かれて「なぜバランスが取れていないのか」「どうすればバランスが取れるのか」などを議論し合った。

終了後、参加者からは「自分の価値観に基づいて生き方の優先順位を付けていいという考え方に共鳴した。これからどう働きどう生きるかを考え直したい」(30代自営業)、「バランスが取れていない自分に愕然としたけど、時々自分の生き方を振り返る時に生かせそうな考え方だ」(40代雑誌編集者)といった感想が聞かれ、セミナーを通じてワーク・ライフに対する関心の高まりが伺えた。

とはいえ、不況下の日本でワーク・ライフは「これが出来れば苦労しない」として、特に企業では敬遠されがちだ。しかし、米国でこの考え方が広がったのは、実は80年代の不況がきっかけだった。

米企業は当時、大規模な人員削減を断行しつつ、他社との競争に勝ち抜くために人種や性別、未婚か既婚かなどを問わず優秀な人材を確保する方針に転換した。一方、優秀な人材ほど仕事と私生活の両立を就職や転職の際の基準にする傾向も強まり、米企業にとって社員の仕事と私生活の両立支援は人事施策上避けて通れない課題となるに至った。

国際コンサルティング大手ウィリアム・マーサー社の調査によると、米企業の86%までもが「今後、社員の仕事と私生活のバランスの問題に対処していかないと競争に勝てない」と考えるようになっている。

米企業の両立支援策は、子育てや介護に関する情報提供や実際的な援助はもちろん、勤務時間外に仕事に関する能力を磨ける機会を提供したり、家族関係や健康といった私的問題に対応するカウンセリングを行うことまで実に多岐にわたる。最近では、外部委託による家事や買い物の代行といった日本では考えられないサービスも登場している。こうした企業の取り組みは社員の満足度を向上させ、仕事へのやる気を呼び起こしたようだ。

米化学最大手デュポンが社員を対象に行った調査では、両立支援策を利用している人のほうが利用していない人に比べて「会社のために努力する」と答えた割合が45ポイントも多かった。また、米経済誌フォーチュンの2001年版「働きやすい企業ベスト100社」に選ばれた株式公開企業の3年間のリターン率は37%となり、同じ期間の米株価指数S&P500のリターン率(25%)を上回った。両立支援策に取り組む企業ほど株価が上昇し、業績も向上していることが裏付けられた形だ。

大学も社会人学生を支援

90年代に入ると、米国では両立支援策に取り組む動きが大学にまで広がってきた。企業の両立支援がさかんになるにつれ、仕事上の能力を向上させようとするキャリア志向の強い社会人の入学が増加し、これに伴って子育てや老人介護に直面しながら学業に励む年齢層の学生を支援する体制が急速に整備された。

両立支援策に取り組む大学でつくる「仕事と家庭の両立支援協議会(CUWFA)」には、全米を代表する120の大学が加盟し、各大学は両立支援センターなどを拠点にワーク・ライフに関わるサービスを一元的に提供している。

米国の両立支援策に詳しい経営コンサルタントのパク・ジョアン・スックチャさんは「ワーク・ライフは人生の大切な側面を否定しない生き方を企業がサポートし、それによって従業員の満足度と企業の生産性を高めるという、企業と個人にとっての『WIN-WINモデル』だ」と分析する。

日本企業も徐々に関心

不況に苦しむ日本企業の多くは、ワーク・ライフに基づいた両立支援策を講じても果たして業績が本当に向上するのかという不安感を捨て切れていない。しかし最近は、松下電器産業や資生堂、日本IBM、花王などの一部企業で「優秀な社員に存分に能力を発揮してもらおう」という観点から、専門部署を設けて両立支援策に取り組む動きが出ている。
日本ではワーク・ライフバランスという言葉自体まだなじみが薄いが、その考え方の重要性に企業も個人もようやく目を向け始めたようだ。

(2002年7月掲載)

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