エクアドルの森からの起業物語 (有)スローウォーターカフェ代表 藤岡亜美さんインタビュー《後編》

エクアドルの森からの起業物語 (有)スローウォーターカフェ代表 藤岡亜美さんインタビュー《後編》

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仕事と社会のこれからを考えるリポート&アクションマガジン
「きゃりあ・ぷれす」vol. 136
2003・4・24(木)発行
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■INDEX■
【特集企画】ビジネスで届けるスローライフスタイルへの思い
天職をさがせ 第8回 がんばれ新人編 藤岡亜美さん(後編)

◆まずは味で勝負! 思いを伝える難しさを克服する
「コーヒーおいしかった」の審査員の一言にホッ

◆人とのつながり、エクアドルの残像… これが私の仕事の支え
「能力が足りないということは嘆くべきことだと思っていたけど、今は
その分誰かとつながってやれるところがビジネスの楽しいところなんだ
なあと思うようになりました」
「自分の中にすべての経験が残像としてあるので『私にしかできないん
じゃないか』と思えるんです」

◆同じ価値観を共有する人を結ぶ仕掛けづくり カフェ出店への道
事業コストの証券化、「アミーゴ制度」などなど

◆転機を価値観に変えるには
「将来を決めつけない」「自己評価を高める」「やりたいことは言う」
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昨日に引き続き、「天職を探せ 第8回 がんばれ新人編 藤岡亜美さん」
の後編をお届けします。前編では、藤岡さんのエクアドルとの運命的な出会
いから起業に至るまでの物語をご紹介しましたが、後編では今年末のカフェ
開業に挑む彼女が今特に感じていることや、天職への思いなどを語ってもら
いました。いかに多くの人にカフェを通してスローなライフスタイルへの転
換という新しい価値観を伝えるかというテーマをめぐっては、私たち編集部
と大いに盛り上がりました。

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ビジネスで届けるスローライフスタイルへの思い
天職をさがせ 第8回 がんばれ新人編 藤岡亜美さん(後編)
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藤岡亜美さん
1979年、東京生まれ。明治学院大学国際学部で文化人類学を学ぶ。
ゼミのフィールドワークで出掛けた南米エクアドルで、日系企業の鉱山開発
計画に反対して伝統農業やエコツアーなどによって自立的で持続可能な生活
スタイルを実践するコタカチ郡フニン村の人たちに感銘を受ける。
在学中は、インタグコーヒーと呼ばれる地元産の有機・無農薬コーヒーや地
元で自生する植物などを利用した手工芸品のフェアトレード(公正貿易)な
どを通じて大量消費型のライフスタイルの転換を呼びかけるNPO「ナマケ
モノ倶楽部」のメンバーとして活動。しかし、同様の活動をビジネスによっ
て多くの人たちに広めたいと考え、カフェ開業を目指して起業を決意。
2002年春の卒業を機に、社会的課題をビジネス手法で解決する志向を持
つソーシャル・アントレプレナー(社会的起業家)を育てるビジネスコンペ
に応募し、見事優秀賞に輝く。
今年3月には東京都主催の学生起業家選手権で優秀賞を取り、インタグコー
ヒーや無農薬料理などを提供するカフェ運営とフェアトレードを柱とする
(有)スローウォーターカフェを近く設立予定。今年末までのカフェオープ
ンを目指して日々奮闘している。

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◆まずは味で勝負! 思いを伝える難しさを克服する
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─こうしてお話を聞いていると、学生を終えて起業して、そのビジネスが環
境保護につながっていて非常に面白いですね。でも藤岡さんにとって、例
えばエクアドルに対する関心をどうやって他の人に伝えていくかって結構
難しいと思うんだけど、どう。

そうですね、難しいと思った場面には何度も遭遇しました。コーヒーを持っ
ていってまず村のことを語りだしてしまうのはダメで、頑固者の喫茶店のマ
スターには「まずは味で満足してもらわないとダメだよ」と教えられました。
なので、ビジネスコンペでもまずは事業計画、ではなく、まず音楽をかけて
ケーキとコーヒーを出します。そうしたら、先日の東京都のコンペで最初の
審査員の一言が「コーヒーおいしい!」だったんです。あー伝わった、と思
いました。

─そうなんだよね、結局一般の人に広く伝えようとすると、その背後にある
ものは必要なんだけど、それは後から聞かされると余計に「あー、いいん
だ」と思ってもらえるんですよ。「こんなにすごいことがいっぱいあるん
だよ」と最初に言っても、「じゃあ、物は何なの」となってしまう。で、
「これいいね」と言われた時に、この背景には実はこんなことがあるんだ
よと話すと「なるほどね!」って余計好きになってくれる。難しいよね。

はい。でも、だからこそビジネスなのかなと思っていて、ビジネスが一番広
く伝えられる手段なのかなと…。

─環境問題に関心があって実際に植林やごみ拾いなどをしている人っていう
のは、どんなコミュニティーであっても全体の1割程度かもしれない。だ
とすると、残りの9割の人たちにどうやって問題の重要性を伝えるかって
けっこう難しい。

ホント、そうですね。でも、カフェをやろうということになって分かったの
は、それまでは商品を手に取ってくれる人だけがコミュニケーションする人
とか巻き込む人だと思っていたんですが、そうではなくて黙って通り過ぎて
しまう人たちなんですよね。で、こういう人たちこそ事業をやり始める過程
に巻き込める人たちなんじゃないかなと思ったんです。

例えば日本の株式投資額は約70兆円と言われていますが、そこにスローウ
ォーターカフェが事業に必要なコストの証券化を通じて広く投資を募る形で
入って行けば、投資に興味のある人を巻き込むことができますよね。また、
デザインに長けた人たちが私たちの事業に参加してくれることで、その人自
身が持っている価値にも何か影響を与えることができるんじゃないかと思う
んです。色々な人を巻き込んでスローなライフスタイルのムーブメントを広
げていきたいですね。

実際のお店ができていないので、これから巻き込みたいと思っている人たち
をどれだけ巻き込めるかという点で結果をだした訳ではありませんが、これ
まで事業を始める過程に参加してくれた人たちの質を見ていると、今までN
GOでブースを出していた時には来てくれなかったような違う種類の人たち
が寄って来てくれています。私は運動家と近しいのでそういう方々から影響
を受けてきた面がありますが、あとの3人はあまり運動家っぽいアプローチ
はしたくないという考えを持っているので、うまくバランスが取れるのでは
ないかと思っています。

─なるほど。意識の高い1割の人たちって、とかく周りの人を取り込まない
傾向があるかもしれません。「私たちは別です」というような感じで。こ
ちらとしては、楽しむことを否定されるような感覚を持ってしまうんだよ
ね。そうではなくて、普通の感覚で今より少し良いことをするという形が
広がるといいなと思うんです。環境問題に興味ない人たちにもアプローチ
するという側面と同時に、いわゆる意識の高い人たちのこれまでの急激で
強引なやり方の対極にある方法を取ろうとしている点も、4人で起業した
意義だと思いますよ。

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◆人とのつながり、エクアドルの残像… これが私の仕事の支え
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─学生の時分は何かと気楽だということはあるかもしれませんが、NGO活
動をする中で何か苦労とか壁を感じたりすることはありましたか。

学生時代にやったことを通じて、世の中の仕組みが分かったという部分はあ
ります。何でも効率が良くて利益が上がらないといけないとか、速さと効率
に乗らないものはダメだとかありますよね。通っていた大学の生協にエクア
ドルのコーヒーを入れようとした時、大資本のメーカーは店舗用のコーヒー
メーカーを入れることによってそれができたんですが、私たちはダメでした。
また、カフェスローを開業する際にマグカップなどを買いに行くんですが、
個人営業のカフェだと合羽橋に行ってもそんなに安くならないんです。そう
いう商談は、企業対企業で会議室の中で行われているんですね。そういうこ
とも分かりました。輸入業務もみんな普通は代理店に頼むので、仕組みがす
ごく複雑です。個人ではやりにくいですね。

あと、これは卒業して身分が変わった時に思ったんですが、まず自分が食べ
ていくためにやることと、自分が今やるべきこととをどうつなげていくか悩
みました。結局、有機・無農薬コーヒーを輸入している(株)ウィンドファ
ーム(福岡県遠賀郡水巻町 http://www.windfarm.co.jp/ )で1年間、契約
社員としてコーヒーの焙煎を覚えながら自分の食べる分を稼がせてもらって
います。

─でも会社を作ると、これからはこれだけで暮らしていかなくちゃならない
よね。

はい。その覚悟はあるんですが、社員4人の給料はいつになったら出せるの
かということです。今はぜったい無理なので、一人3日半をスローウォータ
ーカフェに費やして、あとの3日間は自分の食べる分をどうにか確保しよう
ということにしています。これで、どこまで事業を広げていけるかチャレン
ジしている状態です。まずは1年でカフェを開いて、5年間で事業全体を軌
道に乗せようと話し合っています。

─そうか、これからだね。

はい、まだまだ「天職」なんて言えないかも(笑)

─でも、5年後にもう一度インタビューしたら面白いかもしれない(笑)。
ところで、他の仕事をしていないから「天職」というのが分からないかも
しれないけど、普通に企業に就職しようと思っていた頃と起業しようと考
えるようになって今に至っている状態とを比べて、仕事というものに対す
る考えって変わりましたか。

私の場合、思いだけが先行して事業計画も書けなければ経理もできないとい
うように何も能力がなかったんですが、最近は能力がない分周りの方にサポ
ートしていただいたり、つながりを持ちながら何かをやってくれたりする人
たちがいて事業が成り立っているということをすごく実感できるんです。こ
れまでは、能力が足りないということは嘆くべきことだと思っていたけど、
今はその分誰かとつながってやれるところがビジネスの楽しいところなんだ
なあと思うようになりました。これが一つ。

それから、コーヒー豆をどれだけ輸入して自分たちが稼ぐためにどれだけや
っていかなければならないのかということをチャートにして見ると、かなり
あり得ない「えっ」と思うような数字が出たりするんです。でも、他との差
別化という意味では、コーヒーがどのようにして育つかを自分の目で見て、
加工もして、パック詰めもして売り歩いて、輸入業務も含めて全ての過程を
知っているという強みがあります。フニン村で過ごして、生産者の人たちが
どのような人たちかも会って知っているという強みをどうやって価値に変え
ていくかが、私たちの事業が成功するかのカギだと思っています。

でも、それに関しては私の一番得意とするところだと思うんです。今までこ
れだけの体験をさせてもらっている人は他にはいないし、自分の中にすべて
の経験が残像としてあるので「私にしかできないんじゃないか」と思えるん
です。技術ではありませんが残像を持っているのは私だけなので、何として
もやってやろうという意識はあります。今、雑誌の編集長の方なんかに会い
に行って説明させていただいたりという努力はしていて、やろうと思ったこ
とが形になっている実感が一方ではあります。

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◆同じ価値観を共有する人を結ぶ仕掛けづくり カフェ出店への道
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─成功するには諦めないということなんだけど、もしかすると「もうダメだ」
と思うときが来るかも知れない。それをどう乗り切るか、それは情熱とか
志、私がやらなければ誰がやるという天命のような意識をどれだけ強く持
てるかで決まると思いますが、その条件は藤岡さんにはあると思うよ。

ありがとうございます。実は先日、コーヒーの発送作業を手伝ってもらうた
めに集めた学生たちに、同時にコーヒーとケーキを食べてもらって感想を言
うマーケティング調査の対象になってもらったんです。これってフニン村で
学んだことです。村では誰かの畑で収穫の人手が足りないと他の人たちがみ
んなで手伝うんですが、この時にもらえるのはお金ではなくみんなと働く楽
しさだったりおいしい食事をいただいたりということなんですよね。これを
スローウォーターカフェの文化にしていきたいと考えています。お金のかか
ることはできないけど、関心を持ってもらえる楽しいことを提供して最初に
お客さんになってもらえるようなコミュニケーションを取っていきたいです。

─なるほど、それは同じ価値観を共有する人々のコミュニティーを作るとい
うことともつながるかもしれないね。例えば、膨大な広告費をかけて宣伝
する普通のマンションではなく環境共生住宅やコーポラティブ・ハウスの
ほうに関心があるという人たちは、きっと食べるものに関しても藤岡さん
たちのコーヒーのように出所が分かっている有機・無農薬なものを選ぶと
思う。こういうサービスや商品をまとめてサイトなんかにできないかな、
なんて実は私たち考えてるんですよ。

あ~面白そう、私たちも入りたい(笑)!

─志向性が同じ人って選ぶ商品やサービスも似てるんじゃないかと思うんで
すね。例えば、私たちはコーヒーだけ飲んで生きていける訳じゃなくて、
食べなきゃいけないし、着なくちゃいけないし、住まなきゃいけない。基
本的な生活観が近い人たちに対して、生まれてから死ぬまでの人生の局面
で必要となる商品やサービスをこちらで目利きをして情報として提示すれ
ば、惑わされやすい情報が溢れる中でも間違った選択をできるだけせずに
済むんじゃないかなと思うの。似た選択をする人たちに同じ場に集っても
らうサイトっていうのかな…。

先に予測してサイト上にコミュニティーを作るってことですか。

─そうそう。何でこういうことをやりたいかという理由はいろいろあるけど、
まずは無駄な広告をやめたいんだよね。新聞なんかに広告を流すのは砂漠
に水を注ぐようなもので、ほとんどが吸い取られてわずかしか残らない。
いらない人にとってはホントにいらない情報だよね。だとしたら紙面も時
間もお金も無駄で、そういう無駄はやめたい。だから、将来的にさっき言
ったようなサイトとか雑誌なんかできるといいなと思ってるの。

そうなんですか! 先日の「きゃりあ・ぷれす」の読者アンケート結果号を
拝見して、実は私たちスローウォーターカフェが価値を提供したいと考えて
いる人たちにちょっと近いなって感じたんです。私たちは、自分たちよりも
少し上の世代の忙しく働いている人たちをターゲットにしてやっていきたい
なと思っています。

─さて、今はCafe出店に向けてどのような準備をしているんですか。川
沿いにCafeを出したいそうだけど、何かこだわりがあるの。

やはり、フニン村の人たちの選択に学びたいということです。村の人たちは
ご飯を炊く水を取りに行くにも、水浴びをしに行くにも川に集まって来るん
ですよ。村人たちの生活の中心、体の中心に川があるような感覚で、一本の
川を分け合ってるんです。だからこそ、鉱山開発の影響で川が汚れた時にN
oと言えたんだろうと思ってます。私たちも、東京のど真ん中でみんなが自
然に集まれて、なおかつ楽しい場所として、普段はあまりまじまじと見ない
東京の川沿いにお店を作りたかったんです。

物件は現在探している最中です。条件の優先順位は(1)忙しい人たちが大
勢いるオフィスや商業地の近く(2)住宅地の近く(3)学校の近く─で、
広さは20坪以上で30席以上作れること、家賃は20万円前後です。

証券化のスキームは現在準備中です。あと、先ほどから言っている多くの人
を巻き込む方法として「アミーゴ制度」というのを作りました。アミーゴは
スペイン語で友達という意味です。実際に事業を始めると必要になる日々の
資金を確保するという意味で2000円と1万円の2コースを設けています。
毎月異なる焙煎度合いのコーヒーと季節に合わせたフェアトレード商品をお
届けするものです。1万円コースの方は、私たちへの応援という意味も込め
て参加していただけたらと思っています。なので、こちらからはカフェの進
ちょく状況を手製のはがきや新聞でお知らせしますし、スローウォーターカ
フェの名刺もお渡しします。大きな金額を支払ってくれる人たちなので、商
品やサービスなどについて色々と意見を言っていただき、一緒にカフェをオ
ープンしたいと思っています。彼らは会社にとって小さな株主のような存在
で、これも一つの投資スキームだと考えています。最終的な形としてのカフ
ェがどうなるかということだけではなく、そこに至るまでの過程にもオリジ
ナリティーを出していきたいなと思っていて、最近、父が勤める外資系企業
の株主総会のビデオを見て勉強してるんです。外資系の株主総会ってパフォ
ーマンスがあったりして、つまり株主にいかにして投資を続けてもらうかと
いう点を工夫してるんですよね。そんなところを取り入れられたらと思って
います。

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◆転機を価値観に変えるには
「将来を決めつけない」「自己評価を高める」「やりたいことは言う」
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─そろそろ最後の話題になります。学生の皆さんは今ちょうど就職活動の真
っ最中ですが、藤岡さんは当時就職活動にはどんな思いで臨んでいました
か。

本気で就職しようかどうかどこまで考えていたか分かりませんが、周りがや
っていたので私も…という気持ちはありましたね。私、競争心が強いところ
があるので(笑)。でも、みんなが同じ時期に同じようにスーツ着て同じ場
所にいるっていうことには違和感を持ちました。また、自分の好きなスタイ
ルで自分の暮らしや働き方をデザインできるという意味で、私はフリーター
の生き方を否定しません。そういう気もあったので、皆と同じ時期に就職し
なくても不安を感じませんでした。あと私の場合、皆が就職活動を一生懸命
やっていた夏の3ヶ月間に意識的にエクアドルに行きました。今仕事を見つ
けるよりも、自分がどんな人間かを見つけるほうが大切だと思ったんです。

─今回起業した仲間3人は全員女性なんだけど、今の学生の間では就職しな
いという選択で男性と女性との間の違いってあるのかしら。

絶対あると思いますね。男の子のほうが、自分もそうだし家庭もそうですが、
社会通念のようなものと思いっきりつながってしまっているので可愛そうで
す。就職活動の時期になると元気がなくなる。ゼミの選択もそうでしたね。
私のゼミは女性と男性の比率が5対1でした。毎年少ないんですけどね。男
の子は経済系のゼミに行かないと就職に響くとか言って…。

─社会に出るのに元気がなくなるなんて、おかしな話だね。藤岡さんたちは
これからビジネスをやろうとしているけど、万が一失敗しても、その経験
は絶対後につながるはずだから大丈夫ですよ。まあ、成功するまでやれば
そもそも大丈夫だけどね(笑)。最後に。藤岡さんのように海外で日本の
日常とは異なる世界を目にした経験のある人って以前に比べたら増えてい
ると思います。情報も色々な形で手にしやすくなっているし。でも、そう
したきっかけが転機に結びつかなくて、やりたいことが見つからないとか、
どういう仕事したらいのかということで迷っている人が少なくありません。
藤岡さんの場合はエクアドルでの衝撃が起業への思いにつながったけど、
そうした転機をやりたい仕事や自分の価値観にうまく乗せていく秘訣のよ
うなものってあると思いますか。

最近よく考えるのは、今の社会はそれぞれの人にとっての転機をやりたい仕
事に反映させることを許さないところがあるんじゃないかということです。
私の場合、ダイビングを通して得た自然と文化のつながりという感覚をずっ
と持っていたわけではなくて、エクアドルの森でコーヒー生産者たちと過ご
した残像を信じてやってみようと思った時点からこれまで抱いていた思いが
すーっとつながり出したんです。自分が今やりたい、興味がある、というこ
とを追求し、自分が将来やっていくことはこれだけだ、と決めすぎないこと
が秘訣かもしれませんね。

それから私の場合、自分が実際に持っている能力よりも自己評価が高いと思
ってます。もう少し自分への評価を高めたほうがいいのではないでしょうか。
やれないと最初から思うのではなくて、とことん調べてみるとか行動に移す
ということはやってきました。その時楽しいと感じることをとことんやって
いれば、たとえその仕事がオンリーワンの仕事じゃなくても絶対後になって
残ると思います。

あと、やりたいと思っていることを人に言うことですかね。たとえ根拠がな
くても(笑)。そうすると、自分にとってのロールモデルが自然に現れるん
です。そして、そのような人たちに今までの思いを伝えると、共感してもら
えて一緒に色々なことができるんです。そんなところでしょうか。ただ、私
の場合の課題はもちろん、事業を自分が今日食べることにつなげられるかと
いうことです、ハイ(笑)。

─やりたいことが見つからないというのは、やりたいことを一つに決めよう
とすることから起きるんじゃないかなと思いますね。とりあえずやってみ
よう、というのもいいんじゃないかと。

そうですよね。何もゴールを見つけるために仕事をやるわけじゃないですも
んね。自分探しの過程に1つ仕事があるんだと思います。

─そうそう。結果として何かが生まれてくるし、後から見ると今までのこと
がすべてつながっている─。ということでいいんですよ。あと、例えば藤
岡さんの場合はまだ自宅で暮らせるとか、人それぞれ持っているラッキー
な部分ってあると思うんだけど、それを否定しないことも大切だと思うよ。
否定してつまらないことをやっていてもしょうがない。「ラッキーは使っ
ちゃえ!」ってことね。それで面白いことが出来れば、きっと社会のため
にもなると思いますよ。頑張ってください。(了)

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