ジャーナリスト/コミュニティ・プロデューサー
木村麻紀 公式ウェブサイト

持続可能なコミュニティ、カギは「生き心地の良さ」

お正月明けの三連休を終え、いよいよお仕事モードに入った皆さんも多いかもしれません。今年もどうぞよろしくお願いします!

 

さて、ほとんど遠出をしないことにしているお正月とゴールデンウィークの私のルーティーンと言えば読書。今年のお正月も、もちろん読みました。読んだのは生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある
。日本全国の中でも最も自殺率の低い地域の一つ、徳島県海部町に数年間通いながら、なぜこの地域の自殺率が低いかについてを、自殺が多発地域に分類できる近隣地域との比較で明らかにした本です。自殺予防の観点から重要な示唆が盛り込まれた内容であることは、言うまでもありません。それに加えて、この本で明らかにされた自殺率の低さを下支えするとみられる要因の数々は、昨今全国の地方で繰り広げられている移住促進の文脈で考えると、「移住先として選ばれる地域かどうか」ということにも影響するものだと私は捉えました。

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある
岡 檀
講談社
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本書には、著者による海部町の多様な年代、属性の人たちへのインタビューを通じて見えてきた5つの自殺予防因子というものが書かれています。

 

1、いろいろな人がいたほうがよいという考え方
自治会など地域の相互扶助組織への加入が強制的ではない。加入しない人に不利益を生じさせることもないのだそうです。同調圧力が低いということですね。海部町では、寄付先を自分で決められない赤い羽根募金の集まりが近隣と比べて低いということが、多様な考えを持つ人たちが認められているということを象徴するエピソードとして書かれていました。

 

2、人物本位主義である
年齢や性別、肩書だけで人を評価しない。年長者の言うことを無条件で聞くということもない。「若者組」などと呼ばれる地域の青少年組織でも、近隣地域の組織では見られる先輩からの理不尽なしごきもなく、女性の加入も認められるなど、合理的で柔軟性のある地域性が伺える。

 

3、どうせ自分なんて、と思わない
いわゆる自己効力感、有能感が比較的高い。町民の政治参加意識の高さに表れている。

 

4、「病」は市に出せ
困ったことや悩んでいることを表に出していい、という雰囲気がある。海部町では「あなた、うつっぽいから病院に行ってみたら?」と友人知人に言う人がけっこういるという話を自殺多発地域の住民に著者がしたところ、「そんなこと、言っていいものなんだね」という反応が返ってきたそうだ。困りごとや悩みごとは早めにオープンにして周囲みんなで解決、軽減しようとすることが、海部町では珍しくないことが見て取れる。

 

5、ゆるやかにつながる
人間関係を固定させないということ。挨拶やよもやま話はよくするものの、プライベートな生活までも支え合うということはあまりない傾向が出ている。社交的だけど干渉しない、ということだろう。

 

いずれも、そうだよね、いいな、と思いました。外から移住するなら、こうした気質を持った人たちに囲まれた地域にしたいなと心から思います。

 

本書では、自殺率に影響を与える地理的特性も分析されています。そこから導き出される、ストレス少なく暮らせる街の条件とでも言うべきことは、自殺予防という観点だけでなく、選ばれる街づくりとはどういうことなのかという点でも示唆に富みます。

 

誰もが基本的に徒歩や自転車で、目的の社会資源に到達できるという住環境が整っていれば、住民たちはそれらを最大限有効に活用することができる。そのためには、コミュニティが傾斜の弱い平坦な土地の上にあり、複数の社会資源がコンパクトかつ集中的に配置され、それらを巡ってもさほど労力と時間がかからない、アクセサビリティの良好な環境であることが必要である。(166ページ)

 

5つの自殺予防要因と自殺希少地域の地理的特性は、自殺の抑制だけでなく、元々この地に生まれ育った人たちと外からやって来た人がうまくやっていけるという、移住先として選ばれる地域であるかどうかにもつながってくるのではないでしょうか。一方で、これらと真逆の状況にある地域というのは、コミュニティの持続可能性という部分で大きな疑問符が付く。だからこそ、これからもコミュニティを存続させるという判断をするのであれば、本書で述べられている自殺予防要因や地理的条件を意識した対策を早急に立てることが望ましいと思うのです。

 

最後に、自殺予防対策に活かせる視点として著者から提言されていた「こだわりを捨てる~”幸せ”でなくてもいい」というメッセージについて。

 

自殺率が低い地域では、幸福感を持った人たちが多いのではないかというイメージを持ちがちです(私もてっきりそう思っていました)。でも実際、海部町での著者の調査を分析したところ、「不幸せ」と感じている人の割合は比較対象地域の中では最も少なかったが、「幸せ」と感じている人の割合も同じように最も少ないという意外な結果が出たのだそうです。では、海部町の人たちは何を思っているのか――。「幸せでも不幸せでもない」と感じている人が最も多かったのです。

 

これ、意外に大切なことなのではないでしょうか。

 

私たちは、自分が幸福か否かということについて、他人との比較や、ある一定の価値観と自分の生活様式が一致しているかどうかを考えるといったことを通じて判断しがちです。「幸せでも不幸せでもない」というのは、自分の意思ではコントロールできないこうした外部要因に一喜一憂することを極力抑え、自分なりの軸を持っておおらかにどっしりと構えようという、これからの時代の処世術にも通じるもののように思えるのです。

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