ワーキング・プアの本質に迫る

ワーキング・プアの本質に迫る

ワーキング・プアの本質に迫る

 非正規雇用や複数の仕事の掛け持ちという働き方ゆえに、働いても働いても生活を安定させることができない、いわゆる「ワーキング・プア」という現象。接客業や清掃業など私たちの豊かな生活に欠かせない部分を担っているにも関わらず、自らは豊かな生活を享受できない人々。米国で生きるそんな人々を一人一人丹念に取材してまとめたベストセラー「ワーキング・プア―アメリカの下層社会」(原題 The Working Poor Invisible in America) の著者、デイヴィッド・シプラー氏の来日講演を先日聞きに行きました。
 400ページにも及ぶ本書には、せっかくの収入も各種支払いに消え、なかなか生活を安定させることができずにもがき苦しむ人々がぎっしりと紹介されています。彼らの姿を通じて、貧困とはそのものが問題なのではなく、貧困とは様々に点在する問題の複雑な集合体なのだ、ということをシプラー氏は示していきます。
 


例えば、貧困と住環境との関係。彼らが住む安い家賃のアパートは、小児ぜんそくを引き起こすダニやカビやハウスダストの巣窟であることが珍しくありません。あるケースでは、小児科病院の看護士がアパートの大家に改装を促しても何の反応もなかったため、病院が弁護士を雇って交渉に当たらせた結果改装が実現し、子どもの症状が改善したのだそうです。
 貧困と精神状態との関係への目配りも必要です。彼らはいくら努力しても報われない状況の中で次第に自信を失い、生きる意欲を支えるプライドをも失いがちです。そうした人たちに対しては、まずは心理状態を整理してもらうところから始めて、徐々に社会復帰のための職業訓練を施していくようなプロジェクトが効果を上げているようです。病院と弁護士の連携しかり、カウンセリングとセットにした職業訓練しかり、貧困や格差の問題に対しては、これまでの縦割りによる施策の常識を覆す発想が求められていることを実感しました。「(貧困を)個人のせいにする保守派と、制度のせいにする左派がイデオロギーを超えてともに解決策を見いださないとダメ」というシプラー氏のコメントは、本当にその通りだと思いました。
 それにしても、本書の事例には読んでいるだけで暗澹とさせられます。私たちが目指してきたアメリカという国は、残念ながら既に病んでいるということを、私たちはそろそろ自覚したほうが良さそうです。本書の帯のキャッチコピーである「明日の日本を今日のアメリカにしないために」―。

ワーキング・プア―アメリカの下層社会 ワーキング・プア―アメリカの下層社会
デイヴィッド K.シプラー (2007/02)
岩波書店

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