オーガニックと大量生産は両立しない?

オーガニックと大量生産は両立しない?

オーガニックと大量生産は両立しない?

 オーガニック食品市場の成長が続くアメリカで、オーガニック乳製品の大手ブランド「ホライズンオーガニック」などに対して6月初旬ごろから仕掛けられた不買運動が今なお続いています。このニュース、環境や健康に配慮してつくられるべきオーガニック食品が、普通の食品と同じように大量生産・大規模流通されて果たして良いものなのかという、オーガニック界では古くて新しい問題を改めて投げかけているような気がします。
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ホライズンオーガニックの牛乳。かわいらしい牛のマークで子どもに親しみやすいやさしいイメージを出しているけれども、実は…。


 事の発端は、農業シンクタンクのコーヌコピア研究所(米ウィスコンシン州)が、ホライズン直営牧場に勤務していた元獣医師らの証言に基づき「ホライズン製品はオーガニック認証を得ているにもかかわらず、牛をほとんと放牧せずに狭い牛舎内で大量に飼育している」など、ホライズンに代表される大手オーガニック乳製品向けの乳牛飼育の実態を告発。これに米オーガニック消費者協会(OCA)が呼応し、セーフウェイなど大手スーパーのプライベートブランド用オーガニック牛乳を供給するオーロラオーガニックも対象に含めた不買運動をぶち上げたのです。
 米農務省(USDA)のオーガニック認証では「家畜が牧草地にアクセスできるようにしておく」ことを求めていますが、アクセスだけ保障しても実際に放牧してもらえないのであれば意味がありません。OCAなどは他にも、狭い牛舎内で大量飼育される牛のほとんどが、普通の酪農家で遺伝子組み換え飼料や成長ホルモン剤を与えられて育った子牛を買ってきたものであるということも問題視しています。確かに、いくら買ってきた後でオーガニック基準に沿って飼育しても、子牛の時にこんな状態で飼われたものが「オーガニック」というのはおかしい。要は、USDAの基準が甘いんですね。激増するオーガニック食品の需要に応えようと、ホライズンをはじめとするオーガニック食品の大手メーカーがオーガニック基準の緩和を求めてロビー活動してばかりいることにも、OCAなどは不快感を示しています。
 実は私、去年ニューヨークにいた頃は毎朝ホライズンのヨーグルトを食べていたほどの”ホライズンファン”。約2年前には、取材先でホライズンの幹部と話したこともあったりと(感じの良い方でした)思い入れのあるブランドだっただけに、このニュースは余計目を引きました。
 しかし、ホライズンはオーガニック食品大手のホワイトウェーブ・フーズに買収され、さらにはホワイトウェーブがNYSE上場の食品大手ディーンフーズの傘下に。終わりなき業績アップへの誘惑が働くようになってしまったんでしょうね、きっと。ホライズンのホームページには「340を超える家族経営の酪農家からオーガニック牛乳を調達しています」とありますが、これは同社で使う原料の半分にすぎないんだそうです。ホライズンが大規模経営の酪農家と付き合うようになる一方で、オーガニック農家による協同組合方式のオーガニック食品メーカー「オーガニックバレー」が伸びているという興味深い事実もあります。オーガニックの質を維持したいと願う心ある農家がそちらに流れているのかもしれません。
 アメリカでは、オーガニック食品が実に楽に手に入るようになりました。でもそれと引き換えに、「これ、本当にオーガニック?」という商品が氾濫するという問題に直面せざるを得なくなりました。オーガニックは厳しい基準に基づいた手間から生まれる質の高さがすべて。質が落ちれば、オーガニックは自分で自分の首を絞めることになります。オーガニックと大量生産。この2つの両立はやっぱり無理なのかもしれない、と最近思い始めています。

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