ジャーナリスト/コミュニティ・プロデューサー
木村麻紀 公式ウェブサイト

逆を行く現実

4月末に複数の週刊誌が同時に同じようなテーマをメインに掲げていて、ちょっと驚いた。
 
「年収300万円 いい感じ」(AERA)
「一億総貧乏時代を生き抜くマネー大防衛」(サンデー毎日)
「戦慄のシュミレーション 一生給料が上がらなかったら?」(SPA!)
AERAは、フリーマーケットで洋服を買うのを楽しんでいる女子大生をはじめ、20代では節約してもみじめに思っていない人が増えていると紹介。サンデー毎日は、生命保険を見直し、子供にカネをかけすぎず、現金でしかモノを買うなと説く。SPA!は、年金支給額の世代間格差を数字で示して20代後半から30代前半の諸君の怒りを焚きつけつつ、年収300万円、400万円、500万円の男性サラリーマンの家計を拝見したフィナンシャル・プランナー(FP)さんが「マンションを買ったら子供の養育費はまかないきれない。高校卒業まで奥さんが働いて捻出して、大学には子供に自力で行ってもらうしかない」など身もふたもなくコメントしていた。
いずれの記事も、現在の方向性で改革が進めば収入が右肩上がりで上昇するのはもはや一握りの人だけというアメリカ的状況となり、だからこそ余分な支出を減らしてつつましく暮らそうというメッセージを送っているように見える。週刊誌で同時期に同じテーマが出るのも、こうしたメッセージを受け止めやすい時代の土壌が確実に広がっていることの証しなのだろう。
 
必要ないものを削ぎ落とす方向で行動すれば、ある程度の需要縮小を招くのは避けられない。内需拡大を叫ぶ政治家やエコノミストたちにとっては、もってのほかだろうけれども。でも、こうした行動にある種の清々しさを感じる人々が徐々に増えているようであれば(現に周囲ではそうなってきた)大半の政治家や官僚、経済人が考えがちな「需要喚起で景気回復実現!」というスローガンは相当ノ~テンキかつ無責任と言わざるを得ない。
今、関心が高まり現実に起きようとしているのは、自分の人生にとって本当にホント~に必要なものとは何だろうかということをトコトン見極めてながら行動するという、これまでにない現象なのではないでしょうか。これは、単にブランド品を買ったから今日の夕食はコンビニで…といった類の節約行為とは全く違う。だが、景気回復策と称して数々と打たれるいわゆる対策は、何とかして需要を喚起しようという意図が通低音のように流れていて、どう見ても庶民が現実に考え行動に移そうとしていることの逆を行っているとしか思えない。
ちなみにサンデー毎日の特集では、FPに聞く「私なら100万円をこう殖やす!」と並んで、脱サラして田舎で「月8万円での暮らし」を実践しているという貧乏神髄 (WAVE出版)の著者、川上卓也さんの記事が出ていた。でも…。
文字通り消えてなくなる消費のために使う数千円、数万円を稼ぐためだけに一日中株価ボードを気にしたり、ネット取引サイトに首ったけになって時間を費やす生き方と、使わなくてもいいところにお金を掛けない考え方を身につけ、自分自身でいかようにもできる自由な時間を持つ生き方とは、本来正反対の価値観であるはず。世の中の最先端と見なされがちなメディアの側にも、これからの時代にどのような価値観が主流になるのかまだ見分けがついていない様子が垣間見える。